妊娠はするけれど流産・死産・新生児死亡を繰り返してしまい、結果的に子供を持てない場合を、「不育症」といいます。
しかし、不育症は決して絶望的ではなく85%以上の患者さんが出産にいたっています。勇気をだして、どうぞ、ご相談にいらしてください。不育症には、22週未満の流産を2回以上繰り返す「反復流産」、3回以上繰り返す「習慣流産」が含まれます。この場合の「流産」とは、超音波検査で胎のうという袋を確認できた症例に対して起きたものをいいます。
妊娠反応が出ても胎のうが見えず、すぐに月経が来てしまう場合は、「生化学的妊娠」または「化学流産」とよび、流産には含めません。「生化学的妊娠」は、自分では気づかない場合も多く、妊娠の60%にみられるとの報告もあります。
不育症はいろいろな原因で起こります。1回目と2回目、3回目の流産の原因が同じとは限りません。原因が複数ある場合もあります。
厚生労働省不育症研究班によると、3回流産以上流産を繰り返している場合の流産原因として、子宮の形が悪い子宮形態異常が7.8%、甲状腺の異常が6.8%、両親のどちらかの染色体異常が4.6%、抗リン脂質抗体症候群が10.2%、凝固因子異常として第XII因子欠乏症が7.2%、プロテインS欠乏症が7.4%とされています。
・ループスアンチコアグラント(LAC)
・抗カルジオリピンβ2-GPI抗体
・抗カルジオリピンIgG抗体、IgM抗体
・抗プロトロンビン抗体(aPS/PT)(自費)
・抗フォスファチジルエタノールアミン抗体(抗PE-IgG抗体、PE-IgM抗体)(自費)
抗リン脂質抗体は、自己免疫異常の一つで、これにより血液が固まりやすくなり、血栓ができやすくなります。胎盤の細い血管に血栓ができると、血流が悪くなり、胎児に十分な栄養と酸素を送ることができなくなり、流産や死産につながると考えられています。
また、血栓形成以外にも、妊娠初期に、抗リン脂質抗体が、直接、胎盤のもととなる絨毛細胞を攻撃し、流産を引き起こす機序も考えられています。抗リン脂質抗体には、多くの種類があります。陽性だからといって、全ての人が流産するわけではありません。流産の予防には、アスピリンの内服や、ヘパリンの注射を行います。
双角子宮、中隔子宮、単角子宮などの子宮奇形が、流産を繰り返す原因になる場合があります。子宮奇形があっても問題なく妊娠出産している場合も多く、全例に治療が必要なわけではありません。その他の原因がないかよく検討し、どうしても必要な場合にのみ、手術療法を行います。
夫婦のどちらかに染色体均衡型転座(染色体の2カ所が入れ替わること)がある場合、遺伝子の過不足はないので、その人は、全く正常で健康に問題ありません。しかし、その人の卵子、精子ができる時に、遺伝子の不均衡(過不足)をおこしてしまい、異常な卵子、精子は、流産の原因となります。
転座保因者では、染色体正常夫婦と比べて、流産のリスクは高くなりますが、累積出産成功率は、68~83%という報告されています。
初期流産の原因の多くが胎児の染色体異常にあると言われています。流産は、妊娠の約15%に起こり、その約80%が胎児の染色体異常と言われ、女性の年齢が高くになるにつれてその頻度も上がります。
胎児の染色体異常は、加齢により発生リスクが高まります。その他、喫煙や環境因子が原因の場合があります。
晩婚化により、高齢妊娠の方が増加していますが、年齢とともに、受精卵の染色体異常による流産の確率が増加します。特に37歳以降は、卵子の老化によって、流産のリスクがどうしても高くなってしまいます。40歳を過ぎると、40%が流産するというデータがあります。当院では、加齢卵子の質を改善するための生活指導やサプリメントの処方を行っています。
北海道の喫煙率は全国一で、若い女性の喫煙者も多いのが現状です。妊娠したら、禁煙すれば良いと思っている方が多いですが、それでは遅すぎます。タバコに含まれる数百種類の有害物質が、卵子を老化させ変性させてしまい、不妊や流産をひきおこします。また、妊娠維持に必要な卵巣からのホルモン分泌も悪くなり、子宮内膜への胚の着床を障害します。
また、ご主人が喫煙している場合もタバコに含まれる有毒物質が、精子の遺伝子に傷をつけてしまい、不妊や流産の原因になることがあります。また、なんとか流産を免れて、無事、出産されたとしても、生まれてきた子供の異常や将来の病気(心臓病、アトピー、喘息、糖尿病、発達障害など)の発生率が高くなります。
当院では、夫婦で禁煙したあとに、元気な赤ちゃんが生まれた方を多数経験しています。
1回の流産の原因の80%は、偶然に起きる赤ちゃん(胎児)の染色体異常が原因です。3回流産を繰り返した人の場合も、約半数はたまたま、胎児の染色体異常を繰り返しているための流産と思われます。
検査をしても明らかな異常が判らない不育症の方が約半分存在しますが、これは「原因不明」ではなく、正しくは「胎児の染色体異常による流産」の可能性があります。3回流産を繰り返した人のうち、赤ちゃん(胎児)の染色体異常をたまたま3回くり返してしまった確率(0.8×0.8×0.8=0.512)は、約51%となり、約半分の方は、偶発的染色体異常が原因ということになります。
流産した胎児の染色体を調べるには、胎盤(絨毛)を培養して染色体検査を行う必要があります。しかし、コストも高いため、1回か2回の流産では検査を行わない場合が多く、胎児の染色体異常を確認できず、原因不明となってしまいます。不育症の原因を特定して治療をスムーズに行うためには、流産の手術時に「絨毛培養染色体検査」を行うことが重要です。
不妊で受診の患者様は、初診用の予診カードと不妊外来用のカウンセリングシートの両方が必要となります。